No.8 トイレの神さま(平成29年4月号)

「トイレって奥深い?」
「今日からトイレ掃除をしたくなるお話」


~トイレの神様~
 2010年に植村(うえむら)花(か)菜(な)さんの歌謡曲「トイレの神様」という歌が流行しました。その歌詞の中で
「トイレには綺麗な女神さまがいる」という歌詞があります。
古来より日本には八百万(やおよろず)の神といって、すべての「もの」には神様が宿ると考えられてきました。そのため「トイレにも神様がいるのだ」と考えられてきました。
 私たちのご先祖様はその神様の名前を「ミズハノメ」と呼びました。そして、ミズハノメは、田んぼの水路などの「水が走る」という意味を持ちます。
 日本最古の歴史書『古事記』を見ると、日本を作ったとされる夫婦(イザナミ・イザナギ)の妻イザナミが亡くなったときに生まれた娘とされています。その姿は美しく水の神であることから、トイレを守護する神様としてあがめられるようになりました。

~弁財天がトイレの神様になった理由~
 ミズハノメは神社を中心とした神道(しんとう)の神様ですが、日本仏教にもトイレの女神様がいます。その女神様を「弁財天(べんざいてん)」と言います。弁財天は七福神の一人で才能や勉学の神様として有名ですが、なぜトイレの神様になったのでしょうか?
 ある日、七福神の布袋(ほてい)という神様はヒマだったので人間世界を見ていると、ある長者が新しい屋敷(やしき)を建てているのに気がづきました。布袋は他の七福神を集めて各々で屋敷を守護してやろうと相談しました。
了解した6人は準備をして屋敷に向かいましたが、いつまでたっても弁財天が現れる気配がなかったので6人で持ち場を決めてしまいました。しばらくして、弁財天が現れました。6人はなぜ遅れたのか尋ねたところ
「お化粧が決まらなくて遅れました。」
というのです。しかし、持ち場はトイレしか残っていないので、弁財天がトイレを守護することにしたのです。このとき、弁財天は
「トイレであっても私のように美しくない所は栄えないでしょう。」
といったそうです。
 弁財天の歴史をたどるとインドの川の神様です。つまり、先ほどのミズハノメと同じく水女神であることから、トイレを担当するようになったのではないでしょうか。
 このように日本ではトイレには女神さまが住むと考えられ、トイレを掃除するとべっぴんさんになれる、家が栄えるとなったわけです。
 
~トイレの明王(烏枢沙摩明王)~
 先ほどの弁財天のお話とそっくりなお話がもう一つあります。このお話に登場するのは顔が怖いが烏枢沙摩(うすさま)明王(みょうおう)という明王です。日本に伝わる内容は弁財天のお話と同じなのですが、烏枢沙摩明王の場合は「持っていた袋の宝物が重たくて到着が遅れた」というものです。そのため、トイレ掃除をするとお金持ちになれると言われています。他にも次のようなお話もあります。
 ある日、邪神たちは仏様が穢(けが)れに弱いことを知り、穢れの山で築いた城に閉じ込めてしまいました。そこに烏枢沙摩明王が駆けつけると、その穢れを自ら喰らい尽くし仏様を助け出してみせました。この功績により烏枢沙摩明王はトイレの守護者とされるようになったのです。
 そのため、烏枢沙摩明王をお堂ではなくトイレに祀り、トイレをお堂として扱ってきれいに掃除するお寺もあります。
 このようにトイレとは特別な場所ですが、それでもトイレという場所を好む人はあまりいません。やはり汚いといったイメージが強くて、どうしても近寄りがたくなってしまうのではないでしょうか。しかし、人が嫌がる場所だからこそトイレと修行には強いつながりがありました。

~トイレ掃除の功徳~
 お釈迦さまの実の息子である「ラーフラ」は十大弟子のひとりに数えられるほどの高僧でした。しかし、お釈迦さまにトイレの管理を任せられていたそうです。
 高僧がトイレの管理と聞くと似つかわしくないように思われますが、お釈迦さまは高僧ほど嫌われる仕事をする必要があると考えていました。人の上に立てば嫌な仕事を部下に押し付けてしまうようになり、心が狭く醜(みにく)くなるのです。そのため、嫌なことも受け入れられる広い心を作る修行としてトイレ掃除を取り入れたのです。
 ラーフラの逸話は他にもあります。ラーフラの顔は父と似ていなかったので
「どうしてお釈迦様の息子なのに顔が美しくないのだ。」
と他者に揶揄(やゆ)されたことがありました。その時ラーフラは
「顔は似ていませんが、私の心は父と同じく清らかで美しい。」
といって胸を開いて胸の中の仏様を見せたそうです。他人の心の美しさを知ると、その人が美しく見えます。また、部下の気持ちがわかる人は出世します。このように考えれば、トイレ掃除をすると「べっぴんになる」「お金持ちになる」といったお話は、まんざら嘘でもないのではないでしょうか。 何か目標があるときまずは、まず嫌なことから片づけ広く美しい心を作るのが良いかもしれませんね。