No.14 桃の話~なぜ桃太郎は鬼に勝ったのか~(令和元年6月号)

~はじめに…桃太郎のお話~

 日本の有名なおとぎ話の一つに「桃(もも)太郎(たろう)」があります。そのお話は次のようなものです。

 川上からドンブラコドンブラコと大きな桃が流れてきて、それを拾ったおじいさんとおばあさんはこれを食べようと切ったところ、中から赤ん坊が現れたので桃太郎と名付けて育てました。

 成長した桃太郎は鬼退治に行って苦しめられている人々を救いたいと願いました。親元を離れ旅に出ることになり鎧(よろい)や刀、きび団子を持たされ、涙ながら両親に見送られ鬼の住む鬼ヶ島を目指しました。道中ではイヌ、サル、キジに出会い、三匹はきび団子を褒美として桃太郎の家来となりました。

 鬼ヶ島に到着するとサルが大きな門をたたきました。すると中から鬼が出てきて何の用かと聞くので,桃太郎が「私は日本一の桃太郎だ。鬼退治に来たから覚悟しろ」と言って刀を抜いて中に入っていきました。奥では鬼たちが宴会の最中で,桃太郎が来ても馬鹿にしていましたが、きび団子を食べた桃太郎と家来たちですから、力は何十人力にもなっていました。瞬く間に鬼たちをやっつけてしまい、鬼たちは涙を流しながら「命ばかりは助けてくれ、もう悪いことはしません。」と言うので、助けてあげました。そして、鬼たちが奪った宝物を車にのせて持ち帰ることにしました。村に帰るとお爺さんとお婆さんが大喜びで出迎え、その後みんな幸せに暮らしました。

 桃太郎のお話は主に岡山県を中心として各地にその説話が見られます。地方によっては桃太郎が女の子だったり、桃を食べて若返ったおじいさんとおばあさんの間に生まれた子どもが桃太郎であったりと、いくつかの違いが見られます。しかし、常に桃太郎は桃に関するヒーローとして描かれ、長きにわたり愛されてきました。ではなぜ桃なのでしょうか。本日は桃太郎の桃に隠された秘密についてお話したいと思います。



~桃の用途~

 桃は元々中国原産の果実と考えられています。そのため、日本で桃が食べられるようになったのは中国から伝わってからとなります。しかし、伝わったばかりの桃は今のように甘くておいしいものではなく、実は苦くまずかったそうです。飛鳥京跡などの出土品から日本で育てられた桃は花桃や菊桃と呼ばれ、きれいな花を咲かせる観賞用としての役割がありました。

 『桃(とう)花源記(かげんき)』には桃源郷(とうげんきょう)(桃花源)と呼ばれる理想的な里が登場するお話が書かれます。主人公の漁夫が谷川をさかのぼっていると、突然咲きそろった桃林が現れ桃花源の里にたどり着きました。桃花源の人々の理想的な生活に感動し数日間滞在することにします。その後、来た時の舟で都に戻り大守(たいしゅ)(大名)に報告しました。大守は男に道を案内させ桃花源を目指しましたが、ついに迷ってしまってその地を見つけることはできませんでした。

 このお話のように桃の花は、現世と理想的な別世界を分ける役割を果たしていました。そしてこれらに魅了された日本人も桃を植えて理想郷を夢見たのでしょう。

 ですが、桃の価値はただ観賞用以外にもありました。『神(しん)農本(のうほん)草(そう)経(きょう)』という中国の古い医薬著作を見ると、桃の核はうっ血や血行障害など、血の流れの滞り、またはそれによって起きる様々な症状や疾病などに効く。花は悪鬼を殺し人を良好にする。桃の毛は子宝に効く。などの効果が期待できることが書かれています。このような桃の効能から始まって時代と共に桃の果実・毛・葉・花・枝などあらゆる部分が万病に効くと考えられるようになり、桃には不思議な力が宿っていると考えられるようにもなりました。

 例えば伊勢市二見町の蘇民(そみんの)森(もり)松下社では、しめ縄の木符に桃の木が使われていました。(現在は檜(ひのき))これは魔除けの意味を持ち、中国の「鬼門」という考えが影響していると見られます。
鬼門は東北の方角を表し、鬼が出入りする方角をいいます。古代中国で考えられた鬼は日本人が想像する角(つの)の生えた虎パンツの鬼とは違ったもので、中国の鬼は人間の幽霊(死者の霊魂)のことを指します。霊魂の中には悪い者もいるので、鬼門のような霊の多い所、悪い方角などに桃の木で作った護符(桃符)をかけて玄関などを護ったとされます。そのため、お寺でも桃符のお札を配ったり、屋根瓦に桃をつかさどる印が見られることもあります。

 このように見ると桃太郎がなぜ鬼退治できたのか解ってきたのではないでしょうか。まさに鬼門に対抗する力を持つ桃の子どもこそが鬼を退治するヒーローであったのです。

 しかし、なぜ日本で鬼は角と虎パンツで表現されているのはなぜでしょうか。実は昔の人は方角を十二支で表していました。このとき鬼門は丑寅(うしとら)(牛虎)の方角になります。そのため牛のような角を持ち、虎のパンツをはいている姿が鬼だと考えられるようになったのです。

 日本最古の書物『古事記』にはイザナギが妻のイザナミに会いに黄泉の世界に行くお話では、死者としての姿を見られ怒り狂ったイザナミが放った鬼(霊魂)に桃を投げつけ追い払ったことが書かれ、桃に関する魔除けの力は古くから日本人にも意識されていました。


~なぜ桃太郎は勝ったのか~

 そもそもなぜ桃で霊魂が払えるのかというと、桃には不老不死の力があるとも考えられたからです。中国では不老不死に関するお話がいくつかあり、その中で仙桃(せんとう)というものがあります。

 仙桃は食べると仙人になれるとされる桃で、仙人は食べなくても生き続けることのできる不老不死の身体を持った人物です。これは道教の真理を悟った理想的な人物とされ、通常は男性の姿で現されますが、女性の仙人もたくさんいる様です。その中でも特に有名なものが桃の守り人とされる「長寿老人」です。長寿老人は桃から生まれた姿で現わされ、現在の日本では仏教に取り入れられ、「寿(じゅ)老人(ろうじん)」としてお祀りされています。寿老人と言えば七福神の一人で鹿・桃・杖などとその姿が現されます。

 さて、長寿老人が仙人となった理由を調べてみると、たくさんの女性を抱いたからだとされています。仏教には不邪淫(ふじゃいん)という教えがあり、あまり思わしくないお話ですが、長寿老人が女性を抱くほどの健康体であることが伺えます。

 桃には薬、子宝としての効果があることから、桃は元気を取り戻す果実と見ることもでき、不老長寿は健康から来ていると言えます。桃太郎は健康・元気の象徴だったと考えれば、不健康が導く死、つまり死者である鬼に勝ったといえるのではないでしょうか。

 私たちは長生きしたいと願いますが、不健康に長生きしても苦しいだけになってしまいます。長生きしたいという願いは、幸せに長生きしたいという事で、桃で霊魂を倒すことが出来たように不幸せな気持ち(鬼)に対して幸せな気持ち(桃)を投げつけることで悪いものを追い払えるのです。そしてこれこそが本当の長寿と言えるのではないでしょうか。


皆様も長寿かつ幸せに生きられるよう、日々健康を大切にしお過ごしください。